リンクブログ

ライフをシンプルに、コツコツと。日常お役立ち情報、仕事術、中国語などのポイントをまとめていけたらと思います!Amazon.co.jpアソシエイトにも参加させていただいてます!どなたでも☆&コメントお待ちしております!リクエストも受付中です!

三分で読める小説『空/海』

・私は、飛行機の窓から青空にまばらに漂う白い雲を眺めていた。
・間も無く飛行機が動きはじめる。
・今から私はあの雲の向こうへと行くんだ。
・彼は、またあの海の見えるカフェにいるのだろうか。
・飛行機が滑走路へと向かってゆく。
・僕ら、海と空みたいだね。
・昔彼がつぶやいたその一言が頭にまだ残っている。
・空と海は限りなく近い。
・けれどとてつもなく離れている。
・私達はその孤独に気づき、別れた。
・どうしようもなかった。
・飛行機は空中へと昇り、窓から見える陸と海がしだいに小さくなってゆく。
・彼がいるかもしれないカフェも見える。
・前の席のカップルが久しぶりのフライトにはしゃいでいる。
・私は、座席前のネットに挿してある雑誌を取り出し、眺めた。
・世界各地の観光地の鮮やかな色合いの写真が次々に現れる。
万里の長城エッフェル塔マチュピチュ、京都、アンコールワット
・この飛行機はどの魅力的な場所へも行かない。
・ただ私はこの鬱屈した町を離れる。
・それだけだ。
・私は、雲の上を漂っている。
・下界はもう雲の層に隠れ見えなくなった。
・運ばれてきた豪華な機内食をつまむ。
・それは有名な料亭の和食だった。
・筍の炊き込み御飯に、出汁のきいた煮物や魚を静かに口へと運ぶ。
・昔彼と行った旅館の食事を思い出す。
・私たちは、本当に別れるべきだったのだろうか?
・妥協して暮らしている不幸せな夫婦など山ほどいる。
・私たちは少なくとも似ている存在だった。
・魚の小さな骨が喉にひっかかった。
・澄んだすまし汁を、ゆっくりと喉へと流しこむ。
・濁りのないあの旅館の温泉で私たちは二人、貸切の露天風呂を満喫した。
・機体が少し小刻みに揺れた。
・彼はゆっくりと私に近づき、キスをした。
・さざなみが湯船に浮かぶ。
・彼の体はけっしてがっしりとはしていない。けれど私は彼の体を愛撫するのが好きだった。
・おしぼりで手を拭き、私は機内食を片付けた。
・知らぬ間に機体は下降をはじめ、目的地が近づいていることをアナウンスが知らせた。
・私のふるさとだ。
・スーツケースを引き、私は空港を出た。
・私はタクシーに乗り込み、行き先を告げた。
・タクシーは海沿いを走り、ゆっくりと海から離れながら私の家へと向かっていく。
・彼女はただいま、と呟きラジオに耳を傾けた。(完)



7016.hatenablog.jp