傍屋にはそれから数日後、またお邪魔することになった。
須野香も、渡辺千嘉も、小さな幸せが欲しいのだ。
店主は今日も無心に蕎麦を茹でる。
時にこころがひねくれそうになった時、孤独の寒さを感じた時、ふらっと立ち寄ることのできる場所。
シンプルでありながらポイントを押さえてあるその味をこころの傍に置き、二人はそれぞれまた明日会社へと向かっていく。
二人は静かに蕎麦をすすり、満たされる。
「あとは男さえいればね」
香と千嘉は互いに顔を傍に寄せ、ひっそりと笑顔でつぶやいた。
傍屋はこうして、賑わっていく。(完)